EU Blue Card と Chancenkarte — 学位を挟まず直接転職する道
社会人エンジニア向け。2種類の在留資格の要件と使い分け、年収基準の考え方、不足職種の扱い。要件は毎年改定されるため、一次情報の確認先も明示する。
学位を取り直さず、日本での実務経験を持ったままドイツの技術職へ移る。この道を支えているのが EU Blue Card と Chancenkarte です。
社会人エンジニア向けの記事ですが、ドイツで修士を取ったあとに就職する学生にも直接効きます。特に Blue Card の要件緩和は、理工系の新卒に有利にできています。
2つの違い
まず役割が違います。
| EU Blue Card | Chancenkarte | |
|---|---|---|
| 目的 | 仕事が決まっている人の就労 | 仕事を探すための滞在 |
| 前提 | 労働契約が必要 | 契約は不要 |
| 使う場面 | 内定が出たあと | 内定が出る前 |
つまり、Chancenkarte で入国して仕事を見つけ、Blue Card に移行するという順序で使えます。あるいは日本にいるうちに内定を取り、最初から Blue Card で入るという道もあります。
EU Blue Card の年収要件(2026年)
2026年1月1日から適用されている基準です。
| 区分 | 年収の下限 |
|---|---|
| 通常の職種 | €50,700 |
| 不足職種(Engpassberufe) | €45,934.20 |
理工系はこの「不足職種」に該当します。 IT・情報通信、エンジニアリング、自然科学、数学は不足職種のリストに含まれており、低い方の基準が適用されます。
さらに重要な点があります。
学位取得から3年以内であれば、低い方の基準が適用されます。
つまり、ドイツで修士を修了した直後の理工系人材は、職種の面でも卒業からの年数の面でも緩和の対象です。新卒の初任給でも要件を満たしやすくなっています。
計算するときの注意
ボーナスや変動給は算入されません。 契約書に記載された基本給だけで基準額に届いている必要があります。
日本の「年収」の感覚で計算すると、賞与を含めて考えてしまいがちです。ドイツで見られるのは契約上の基本給です。オファーを検討する際は、この点を確認してください。
Blue Card のその他の要件
- 大学の学位が必要です。ドイツで認められる学位かどうかは anabin で確認します
- 学位の分野と職務内容が対応していること
- 労働契約があること
Chancenkarte(機会カード)
仕事が決まっていない段階で、求職目的でドイツに滞在するための資格です。ポイント制を採用しています。
2つの入口
1. 資格が完全に認められている場合 — ポイント計算は不要で、そのまま該当します。ドイツで認められる学位や職業資格を持っていれば、こちらです。
2. ポイント制 — 6ポイント以上で該当します。
ポイントの内訳
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 資格・学位 | 最大 4 |
| 直近の実務経験 | 2〜3 |
| 語学(ドイツ語または英語) | 1〜3 |
| 年齢(35歳未満) | 2 |
| 年齢(35〜40歳) | 1 |
| 過去5年以内にドイツに6ヶ月以上滞在 | 1 |
語学と資金の前提条件
ポイントとは別に、最低条件があります。
- 語学: ドイツ語 A1 または 英語 B2
- 資金: 滞在期間中の生活費を証明すること(月額の基準額が定められています)
注目すべきは語学の条件です。ドイツ語がなくても、英語 B2 があれば前提条件を満たします。 他の項目でポイントを積めば、ドイツ語ゼロでも該当し得ます。
日本人エンジニアはどこに当てはまるか
理工系の日本人にとって、条件は比較的有利です。
- 学位: 日本の主要大学の理工系学位は、anabin で認められていることが多い
- 職種: IT・エンジニアリング・自然科学・数学は不足職種
- 年齢: 20代〜30代前半なら年齢のポイントが取れる
- 語学: 英語 B2 で前提条件は満たせる
つまり、制度上の入口は開いています。障害になりやすいのは制度ではなく、次の2点です。
- 年収の基準に届くオファーを取れるか — 基本給ベースで €45,934.20 以上
- 職務経歴をドイツ企業に理解される形で書けるか — 日本の職務経歴書のままでは評価軸に乗りません
学位を取り直すか、直接転職するか
社会人の方が最初に決めるべき分岐です。
直接転職が向いているケース
- 学歴が anabin で認められている
- 実務経験が5年以上あり、専門性が明確
- 現在の職種が不足職種に該当する
- 早く移りたい
修士を挟むのが向いているケース
- 学歴の評価が不確実、または分野を変えたい
- ドイツでの人脈と現地経験をゼロから作りたい
- 在学中に Werkstudent として現地企業に入り込みたい
- 学費が無償なので、機会費用だけで学位を追加できる
後者を選ぶ人が見落としがちなのが、ドイツの公立大学は授業料が無償だという点です。学位の取り直しにかかる直接コストがほぼゼロなので、日本や米国で同じことをする場合とは判断が変わります。詳しくは費用の記事を参照してください。
最初にやるべきこと
- anabin で自分の学歴を確認する — すべての起点です
- 不足職種に該当するか確認する — 連邦雇用エージェンシーのリストで確認できます
- 現在の基本給を €換算し、基準額と比較する — 賞与を除いて計算してください
- 英語のスコアを確保する — Chancenkarte の前提条件になります
1と3は今日できます。ここが分かれば、直接転職と学位経由のどちらが現実的かの見当がつきます。
この記事の情報について
年収の基準額、不足職種のリスト、ポイントの配分は毎年改定されます。 この記事は2026年時点で確認した内容ですが、実際の申請にあたっては必ず一次情報を確認してください。
ネット上には改定前の古い数字が大量に残っています。年号の記載がない情報は信用しないでください。 最も確実な情報源は、連邦移民難民庁(BAMF)と在日ドイツ大使館の公式ページです。