MINT Bridge

英語だけで修了できるドイツの理工系修士は、実際どれだけあるのか

「ドイツ=ドイツ語必須」という前提が、修士に関しては成立していないことをデータで示す。分野別の分布と、英語開講が多い大学・少ない大学の傾向。


「ドイツに留学するならドイツ語が必要」——これは学士については正しく、修士についてはほぼ間違いです

ドイツの理工系修士には、出願も履修も修了も英語だけで完結する課程が多数あります。しかも公立大学なら授業料はゼロです。この事実が日本でほとんど知られていないので、データで示します。

まず数字

このサイトが掲載している、英語のみで修了できるドイツの理工系修士は以下の通りです。

掲載課程数68
掲載大学数22
うち TU9(工科大学連盟)9校 / 37課程
うち HAW(応用科学大学)2課程
授業料が無償の州の課程58 / 68

これは網羅ではなく、このサイトが確認した範囲です。実際にはドイツ全体でさらに多くの英語開講課程が存在します。数値はデータベースから直接出しているので、掲載を増やせばこの表も一緒に動きます。

なぜ修士だけ英語なのか

学士がドイツ語なのに修士が英語という状態は、一見ちぐはぐに見えます。理由は制度側にあります。

ドイツの学士課程は、基本的に国内の学生を育てるための課程です。授業はドイツ語で行われ、対象は主にドイツで育った学生です。

一方、修士以降は研究に接続します。研究の共通語は英語であり、研究室では論文も学会も議論も英語で回っています。さらにドイツは国策として国際的な研究人材を集めており、大学の国際化戦略が集中的に投入されているのが修士課程です。

つまり「学士=国内向け、修士=国際向け」という役割分担があり、その結果として言語が分かれています。ドイツ語ができないことは、修士出願の障害になりません。

分野によって選択肢の数が全く違う

ここが、このデータで最も実用的な部分です。「理工系」とひとくくりにできません。

分野課程数
情報・AI・ロボティクス25
電気・電子・通信13
物理・数学10
医工学・バイオ5
機械・生産・メカトロ4
土木・環境・水4
航空宇宙・自動車3
エネルギー2
化学・材料2

情報系が全体の3分の1以上を占めています。情報・電気・物理系なら、英語だけでも選択肢は十分にあります。

問題は機械系です。機械・生産に航空宇宙・自動車を足しても、情報系ひとつの分野に遠く及びません。ドイツといえば自動車と機械のイメージがあるにもかかわらず、です。

これには理由があります。ドイツの機械工学は国内産業と結びつきが強く、ドイツ語で教える伝統が根強い分野だからです。逆に言えば、機械系の人がドイツ語をB2まで持っていくと、選択肢が一気に数倍に広がります。

機械系で「英語だけで行けるか」を検討している人は、ドイツ語をやるかどうかが進路の幅を決めます。情報系の人とは意思決定の構造が違うので、同じアドバイスは当てはまりません。

大学別の分布

大学課程数
ミュンヘン工科大学10Bayern
アーヘン工科大学8Nordrhein-Westfalen
ドレスデン工科大学5Sachsen
ザールラント大学5Saarland
シュトゥットガルト大学4Baden-Württemberg学費あり
エアランゲン=ニュルンベルク大学4Bayern
ベルリン工科大学3Berlin
ハノーファー大学3Niedersachsen
フライブルク大学3Baden-Württemberg学費あり
マクデブルク大学3Sachsen-Anhalt

TUM と RWTH が英語開講の中心です。この2校だけで全体のかなりの部分を占めます。

一方で、知名度では劣るが分野特化で強い大学にも注目してください。ザールラント大学は情報系で5課程を英語開講しており、同じキャンパスにマックス・プランク情報学研究所と CISPA(セキュリティ研究の拠点)があります。情報系なら、TUM や RWTH より適している場合があります。

なおバーデン=ヴュルテンベルク州(シュトゥットガルト、KIT、フライブルク、ウルム)の大学だけは非EU生に €1,500/学期がかかります。2年で €6,000 の差になるので、この州を選ぶ場合は理由を明確にしてください。

「英語開講=入りやすい」ではない

ここは正直に書いておきます。

英語で開講されているということは、世界中から出願が来るということです。ドイツ語開講の課程なら競争相手はドイツ語話者に限られますが、英語開講の課程では、インド・中国・イラン・トルコ・東欧からの優秀な出願者と同じ土俵に立ちます。

人気のある英語開講課程は、ドイツ語開講の同等課程より倍率が高くなることがあります。「英語で出せる」は「入りやすい」ではありません。

「英語で修了できる」の正確な範囲

英語で完結するのは以下です。

  • 出願書類
  • 講義と試験
  • 修士論文
  • 研究室での議論(分野によります)

英語では完結しないのが以下です。

  • 役所の手続き — 住民登録、滞在許可、銀行口座
  • 賃貸契約 — 契約書はドイツ語
  • 病院 — 英語が通じる医師もいますが、保証はありません
  • 就職活動 — 企業によります。大手ITや研究職は英語で通ることがありますが、Mittelstand(中堅製造業)は事実上ドイツ語必須

つまり「卒業はできるが、生活と就職はドイツ語」です。渡独後にB1〜B2まで持っていく前提で計画を組むのが現実的で、学位取得だけが目的でないなら、ドイツ語は避けて通れません。

探し方

このサイトのプログラム一覧で、分野・大学・州(=学費の有無)による絞り込みができます。日本語で横断検索できる場所が他になかったので作りました。

より網羅的に探すなら、DAAD の公式データベースが情報源として最大です。ただし英語かドイツ語で、検索条件も細かいため、このサイトで当たりをつけてから DAAD で詳細を確認する使い方を想定しています。

出願前に確認すべきこと

英語開講の課程が見つかったとしても、そこに出願できるかは別問題です。ドイツの修士は学士での専攻の一致を厳格に見るため、以下を先に確認してください。

  • その課程が要求する前提科目を、自分が学士で履修しているか
  • 単位数が要件に届いているか
  • 語学スコアの基準(課程ごとに違います)

日本の学部にありがちな「幅広く学ぶ」カリキュラムだと、特定分野の単位数が足りず要件を満たさないことがあります。志望校を決めるより先に、履修済み科目の棚卸しから始めてください。

この記事のデータについて

掲載している課程数・大学数はこのサイトのデータベースに基づく数値であり、ドイツ全体の網羅ではありません。また各大学の開講状況は年度によって変更されます。出願にあたっては、必ず各大学の公式ページで最新の情報を確認してください。

無料相談を予約